1936年2月12日の作品この尺八を直してみたいと思ったきっかけは、竹に刻まれた「一九三六 二・一二」の日付です。「二・二六事件」の２週間前。青年将校によるクーデター未遂事件を機に軍部が政治の主導権を握るようになりました。大正時代の好景気から一転して昭和の初期は暗い世相になりました。ちょうどその頃「新日本音楽」として箏や尺八の人気が高まっていたことをご存知でしょうか。そんな時代に作られた尺八に興味が湧いたのです。製管師の手による高価な尺八もありました、演奏する人が自らの吹き料を作るのは決して特別なことではなかった時代です。この尺八を作った方はどのような方だったのでしょうか？膨らむ妄想日に日に戦争の足音が近づく昭和11年、ある青年は当時ブームとなっていた尺八を習い始めます。すぐにその音色の虜になった彼は自分の尺八を作ろうと竹藪に向かいます。何本か失敗したのちやっと満足できる１本が出来上がります。そして記念に完成日を刻みました。ちょっと太めの竹ですが姿に似合わない繊細な音が魅力でした。そして人前でも吹けるぐらいになりたくて毎日練習に励んだのです。ところが昭和12年には日中戦争が始まりついに大東亜戦争になりました。彼のところにも「赤紙」がとうとうやってきました。戦地に尺八を持っていこうとも考えたのですがやはり断念しました。「帰ってまた尺八を吹くこと」が彼の夢でしたが・・・・・・勝手に妄想しましたがあながちフィクションでないかもしれません。沈没した潜水艦を引き上げた際に「玉水」銘の尺八が乗組員の遺品として出てきたのは有名な話です。暗い時代だからこそ音楽に楽しみを見いだした人は多かったと思います。（私の父も召集される前までアコーディオンを弾いていたと話していました。）誰も知らない名曲「英霊に捧ぐ」横山勝也師の父である横山蘭畝師は戦争中も尺八を作り続けていました。当時住んでいた浜松には空挺隊（特攻）の基地がありそこの若者にも手ほどきをしていたそうです。しかし尺八を教えていた若者の多くは帰らぬ人になってしまいました。彼らの訃報の知らせのたびに追悼の曲を吹いていました。それがこの曲です。https://youtu.be/w81F1cBx-rQ勝也少年もこの曲を何度も聞いたことでしょう。この尺八で吹くのに相応しい曲ではないでしょうか。【諸元】長さ520mm重さ392g頭部直径40mm 底部直径55mm歌口内径縦21mm横21mmエッジ深さ4mm弱最大指孔12mm一部に浅いクラックがありますが演奏に全く問題ありません。また念のためテグスで補強しています。PC動作環境などで色味が異なることがあります。何か疑問点があればご質問ください。なお取引はNC/NRでお願いします。お手持ちの量産尺八を改造したい場合には質問コーナーに電話番号をいれてお送りください。折り返しSMSにてご連絡します。質問には答えませんので電話番号が公開されることはありません。落札された方は必ず落札後48時間以内に手続きを開始するようお願いします。（落札代行業者の方はご注意ください。）また、評価が著しくよくない方は入札を取り消す場合があります。（2022年 7月 4日 11時 29分 追加）【修復箇所についてのご質問に答えて】１外観のテグス巻き・・・指孔周辺のクラックは入手時に修復されていました。息漏れもなく問題なく音が出る状態でしたが、念のために装飾を兼ねて二種類のテグスで補強しています。２歌口まわり・・・①舌面角を少し急にしました。②開口部傾斜も急にしました。③アゴあたりを大きく落とし「龍畝タイプ」にしました。④開口部には節による「息返し」がありましたが、内径を整えるために削り落としました。⑤黒い角の部分はオリジナルのままです。３指孔・・・孔の周辺の形を整えるため全孔わずかに拡大しています。第２孔および第３孔は「傾斜パテ」によって音程を下げています。また第１孔には浅いメリカットを付けました。４内径・・・管尻部分の内径が狭いため音抜けが悪く筒音のピッチも低かったのでその部分（出口数cm）を拡大して改善しました。５塗装・・・管体内部、修復箇所（歌口、管尻、各指孔）をオリジナル色に近い人工漆で塗装古い尺八の良さをできるだけ残しながら現代でも十分使えるように大幅に改造していることをご理解ねがいます。